書くまでも無いが、完璧である。


どうしてもTV版AIRで気になる点を挙げろといわれたとき、ストーリー展開の速さを指摘するくらいしかない。

原作版AIRはVN故、いや「絵本」故の『間』が存在し、読み手側のペースでストーリーを咀嚼していく過程の中でより深い感傷に浸る事が出来る。これは原作版AIR読了後に5日間ほぼ思考停止に陥ったことが証明している(私事だが最長はONEの15日間)。しかしTV版は限られた放送時間に収めるため、観鈴を長時間苛む描写や往人の心の移り変わりを十分に表現できていない。このため、視聴者は原作版AIRで受けた感動をTV版の各場面に対しフィードバックする事で感情の補完を余儀なくされた。原作を体験していない人がTV版を見てはいけない理由がそこにある。
が、純国産アニメでありながらDVD保存では完全に再生できないほどのHDクオリティを維持して全話を描ききった京都アニメーションの技術と情熱には感謝を捧げたい。確実に21世紀最高の作品であることは間違いないだろう。

     *

概して、VN原作のアニメ化は難しい。それは雫から始まるVNの潮流がつい数年前までマルチエンディング志向であったことに由来しており、通常のアニメでは必須となる複数キャラクターが絡むようなストーリーのシーケンシャルな展開がそもそも原作には存在しないことが原因である。そのため20世紀のVN原作アニメはオムニバス形式をとる事が多く、結果としてそのアニメ化作品はことごとく駄作凡作のレッテルを貼られてきた。
しかしながら原作のAIRは少ないヒロイン数とストーリー最重視、かつヒロインに明確な重み付けを行う事でマルチエンディング型VNの「イコールコスト・ヒロイン」を排除した画期的な構成であり、以後のVNが多様化するきっかけを創った。勿論AIRの全てがそのストーリー構成であるわけではないが、大きな要素を占めていることは確実である。
イコールコストでないヒロインを持つ代表格としてはD.C.があり、アニメ化に当たってはクオリティの維持(数回の破綻はあったが)をしつつ、前半オムニバス+後半ストーリー展開とする事で後半部分については「化けた」とまで言われ高評価のうちに終わったが、残念ながらヒロイン数が多すぎて全体的に希薄感が漂っていた。これ以外の最近の大手でAIRと完全に同一ライン上にいるのはSNOWだけのように思えるが、残念ながらSNOWのストーリー展開はAIRと比較するまでも無く貧弱だ。また世界観も拡がりが無く、もしアニメ化するとしたら神の手により原作を超える必要があるため非常に困難を伴うだろう。

こうして、我々はまた一つ最高のベンチマークを手に入れた。以降の作品は全て減点法で評価されることになるだろう。

One thought on “TV版AIR~総評

  1. 私の知る限りでは、1998年作品のVN「久遠の絆」は、メインヒロインなメインストーリーにほとんど比重が置かれた作品でした。他2名のヒロインはおまけ。他にも加奈とか、事実上のシングルヒロインは当時でもさほど珍しくないと思われます。

    そんなんで、AIRが、ノン「イコールヒロイン」の先鞭かというと、どうかと思うし、AIR以降増えたのかなというのも実感がないです。

    それに対して、強力にテーマを押し出した作品(ストーリー重視)は少なかった。その点についてはAIRが、嚆矢といえるかもしれません。

    それはともかく、AIR最高でした。

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